10 ランディの反抗期 1




 あと五日もすればクリスマス、そしてケーキ三昧だった大樹の誕生日から一週間、 二人は一足先に発ったランディの待つアメリカ、ロサンゼルスへ。

 この一週間、大樹は実に忙しかった。
 誕生日翌日からの出張、帰って休みもなく会議と営業計画書の見直し。まあ、二週間も休暇を取るのだ、致しかたないが いささか疲れた。が、それも乗り切り嫌でもこれから二週間はのんびり出来る。散々さぼっていた基樹もたった二週間くらいは しっかり働いてもらう。もちろん凜子にはその指示をしてきた。
 リニューアルは東吾に任せておけば今のところ問題はない。年末年始のイベントおよび営業に関しては一課が取り仕切って いるので何の心配もいらない。すべき仕事は片づけてきた。ただし、二週間後のことは考えないことにしよう。

 そして年内に決めようと言っていたウェディングドレスは、サロンから贈られることになった。 もちろん特別デザインのオーダーメイド。当然と言っちゃ当然だろう、結婚情報誌でサロンのドレスが何度人気ランキングで 上位に輝いたことか。どれもこれも朱音のおかげと言っても過言じゃない。
 というわけで、どんなドレスになるのかは新年のお楽しみ。新作発表会で忙しいはずの デザイナー先生が何点か用意してくれるというので、素直にその気持ちを受け取ることにした。

 結婚式の細かい打合せは帰国後。ただ、仕事を含め朱音の今後についてはまだ何も話し合っていない。 日本にいる間はきっと何も変わらないだろうが、それは基樹との約束の一年だけ。今回の休暇をきっかけに、 少しずつでいいから朱音がアメリカに慣れてくれればいいと思う。その時期が来てからどうするのか決めるのも 遅くはない。

 そして長いフライトを終え、大樹と朱音、二人して降り立ったロサンゼルス空港。ベンを車に 待機させ二人を出迎えたのは他でもないランディ、着いて早々朱音そっちのけで大樹とお話し中。結局はこっちに来ても まずは仕事で休暇はそれから。


「今日だけ我慢して。二、三時間で終わる。世の中はクリスマス休暇だし、 ランディが不始末をしでかさない限り明日からは完全オフだから」

「何が不始末です、嘘はいけませんよボス。アカネ、世の中クリスマス休暇ですが、チャリティーパーティーに出席するのも ボスの大事な仕事ですのでアシカラズ」

「アシカラズだぁ?そんなのおまえが行けばいい」

「ええ、もちろん出来る限りそうしてます。でもせっかくアカネがいるんです、ご一緒に出席したらどうです? アカネだってパーティーに行ってみたいと思いませんか?それ以外は明日以降、年内は完全にオフを約束しますので、 どうでしょう?」

「どうでしょうって、朱音をだしにするな、内心朱音が何かやらかさないか心配なくせに。 だいたいが完全なオフにする気なんかないだろ?無駄口はいいからさっさと行って仕事を かたずけるぞ」





 そうして朱音が連れて来られたのはサンセットマダー社。大樹の仕事が終わるまでここ、 ランディのオフィスで待っていろと言うのだ。

「凄いね、ランディったら一部屋もらってるんだ」

「リンコだってそうでしょ」

「そうだけどさ、こっちの方が全然広いよね?てかさ、お客様来てるのに秘書がここにいていいの?」

「ええ、ボスの秘書は僕だけじゃありませんからね。お茶出しなら僕が行かなくても大丈夫でしょう」

「うゎ、お茶出しの為の秘書?贅沢〜」

「僕だってそうですよ?アカネにコーヒーを出す為にここにいるんですから。少し濃いめにしましょうか、 時差ボケにはこれです」

「うん、そうしてくれる?濃いめの甘めのミルク多目で、ってラーメンみたい」


 朱音は自分で言ったことに自分で笑って、コーヒーの準備をするランディの背中を眺めながら大きな伸びをした。

「この時差ボケを大樹は毎月経験してるのね、いつも平気そうな顔してるけど眠くないのかな?」

「慣れ、でしょうか?ボスが言うには、着いたその日は眠くても夜になるまで寝ないことが時差ボケしない秘訣だそうです。 だからコーヒーで眠気を覚ましましょう。そうそう、もらい物ですがクッキー…」

「頂きます!」

 言い切る前の即答に、コーヒーメーカーのスイッチを入れながらランディは思わず笑ってしまった。振り返るとランディのデスクの椅子で 偉そうにふんぞり返っている朱音にまた笑ってしまう。

「笑わないでよ、寝なきゃだらけててもいいでしょ?あ〜あ、時差を甘く考えてた、飛行機で寝られるから大丈夫かと 思ってたけどやっぱダメだぁ、動けない〜っ」

「情けないですねェ。そんなんじゃ二泊四日のハワイ旅行は無理ですね。今、OLに人気があると聞いてますよ?」

「あー、それ週末羽田発ってやつでしょ?でもさ、二泊四日のバケーションってあり?癒しどころか疲れに行くようなもんでしょ?」

「それは目的がバケーションではないからでしょう。四日で行けるならとにかく行く、ということでは? 買い物に観光、マリンスポーツも一通りして、パワフルですね、日本の女性は」

「なるほど、そういう事ね…じゃあそのうちの買い物が日本で出来たら時間に余裕が出来るよね? だったら向こうにあるのと同じおっきなショッピングモールを日本に造っちゃえ。 そうだなー、ホテルが隣接してたら尚良し、そんでもってスタッフも外国人だらけだったら面白いかもね」


 体を乗り出して楽しそうにケラケラ笑って話す朱音の眠気はどこへやら。 それにしても、とランディは思う、よく咄嗟にいろんなアイデアが口から飛び出してくるもんだと。しかも、ランディがこれから 出そうとしているコーヒーよりも眠気覚ましに効くらしい。

 しかしこれによく似たプロジェクトをランディは知っている。
 日本においてホテルを含む複合施設の建設、まさに今ボスが会っているポール・コーマンが 中心となって進めようとしている計画だ。
 わざわざ今日を狙ってポールが大樹を訪ねてきたのは他でもない、 彼は諦めていないのだ、大樹にホテル経営を任せることを。

 まだ正式に決定したわけではないが、その計画に向けてコーマン社が動き出していることはアメリカでは 周知の事実。何といってもコーマン社の日本進出の最大の目的はそれなのだから。


「なかなか面白い発想ですね。もしどこかで必要とされていたらその案を紹介しておきますが?」

「マンガみたいな企画なのに?でもそんなホテルがあったら私も行ってみたい、イケメン揃いなら尚可。ねえ、それよりコーヒー、まだ? もう瞼がくっついちゃいそう…はふぅ…」


 自分の意見を言い終えると、また睡魔に襲われる朱音が欠伸をかみ殺しながら椅子の背にもたれ掛った。少ししてランディが 注文通りの甘めのカフェオレと、クッキーを朱音の前に出したが既に意識の半分は夢の中。それでも漂うコーヒーの香りとクッキーの 甘い匂いに一瞬だけ気を取り戻したが、それもほんの数分。クッキーを一枚口にして、コーヒーは半分も飲まないうちに、 朱音の意識は完全に夢の世界へ。





「アカネ?」

「・・・・・・・」


 ランディがデスクに突っ伏す朱音に気付いたのは、ほんの少し部屋を空けて戻った直後。返事のない朱音の後ろで肩を揺すって もう一度呼んでみたが無反応。出来れば寝ないに越したことはないが、寝てしまったものをたたき起こすのも忍びなくて、 ランディは着ていた上着を脱ぐと朱音の背中にかけた。


「ふぅーっ」

 ランディは別の椅子をデスク脇に持ってくるとゆっくりと腰かけた。頬杖をついてなんだか子守をしていたような気分で、 その子供が寝てホッとしたというところ。きっと本人が聞いたら怒るだろうなと朱音の顔を見ながら、 ランディは心の中である思いに駆られていた。

 それはコーマン社の依頼を受けるようボスの考えを変えられないかということ。ボスを後継者にするという思惑はとっくに頓挫したのだ、 諸事情は別として断固として断る理由がボスの言う時期尚早だけとは考え難い。なぜなら ビジネスライクに考えてもコーマン社のプロジェクト参加はサンセットマダー社にとってプラス以外の何物でもないからだ。
 ただ、唯一の問題はボスが今まで以上に忙しくなること。誰かサポートできる者がいればいいが、ボスがタイトスケジュールならば ランディとて同じこと。それにランディにはサポートできるほどのノウハウはない。だが何か解決策はあるはずで…




 ガチャ―――

 解決策など簡単に思い付くはずもなく、 ドアの開く音にランディが振り向くとそこには大樹の姿が。

「ミスター・コーマンは帰られたのですか?」

「ああ、たった今。社での用事は済んだし俺も帰っていいな?持ち出し禁止の書類はないようだから家で目を通して 明日、ベンに届けさせる」


 言いながら大樹は朱音に近寄ると寝顔を覗き込んでふぅ、と息を漏らすと、なんで寝てるんだとつぶやいた。


「起こしますか?」

 言いながら椅子から腰を上げようとするランディを手で制し、大樹は朱音とランディの間に割り込みデスクに軽く腰を置くと、 朱音の顔にかかる髪を指でそっと払った。

「いや、起きそうにないからベンが来るまで寝かせておく。それよりCEO代理、上手くやってるじゃないか。さすがだな、 部下の評判もいいぞ」

「ありがとうございます、でもミスがあってはいけないと毎日緊張の連続で、実をいうとボスが戻られてると思うだけで 内心ほっとしてるんです」

「そんなの気の持ちようだ。ま、そのうちその緊張感が病み付きになるさ。どうだろう、いっそこのまま本職にしないか?」

「冗談も大概にしてください、いつまで休暇を取るつもりですか?代行はボスの休暇が終われば終わりです。したがって それを本業にするつもりはありませんし、僕はただの秘書です。そんな大役、僕を殺す気ですか」

 朱音の髪をいじっていた大樹の指がピタリ止まると、ふふふっと含み笑いでランディを振り返った。

「つまらないな、もっと面白い答えを期待してたんだが?」

 ニヤっと意味ありげに笑う大樹に眉を寄せるランディ。つまらないと言われてもこれが本心、嘘でもやってみたいなどと言えば、 このボスは本当にそうしかねない。

「他にないのか?答え次第では当分こっちで頑張ってもらおうかと思ったが、 休暇が終わり次第、秘書としておまえもまた日本だな」

 そんな当たり前の事、確認するまでもないのに。
 なのに、なぜかカチンと来たランディはキッと大樹の顔を睨んだ。


「もちろん、そのつもりです。でないと、困るのはボスの方ですよ?確かすべての決済は僕に任せると言ってましたね。 僕としてはコーマン社のプロジェクトに参加すべきだと考えてますので、代行としてミスター・コーマンと直接話を進めることも 出来るんです。その場合、ボスには僕の指示に従ってもらうことになりますが?」


 突然の大胆な発言にちょっぴり驚く大樹。だがほんの数秒の沈黙の後、 くくくっと大樹が笑ったかと思うと、急に立ち上がってランディの前に立つと腕を組んで見下ろした。

「なるほど、そう来たか。答えとしては面白いが俺を脅す材料としては弱いな。現実問題、おまえだってコーマン社の 事業に参入出来ない理由はわかってるはずだ。無理をすればうちの信用は丸潰れ、最悪な結果も予想しなきゃならない。 そんな危険をおまえが犯すはずないし、俺だってそんな馬鹿に全権を委ねない。でなきゃおまえは とっくに実行に移してるだろ?」


 全くその通り、返す言葉もないがやはりこのプロジェクトに参加すべきだとの考えは変わらない。
 その思いは日本に行って余計に強くなった。もちろん、 大樹には既成の物ではなく、ゼロから自身で創り上げた時に一体どんなものが出来るのか、彼を知っている者なら誰だって見てみたい と思うだろう。それが今は無理なのだとしても、将来の為の一歩にはならないだろうか。


「確かに、マイナス要素の方が多いのは事実です。でもボス、管理経営が無理でも、企画段階からアドバイザーとして関わることは 出来るのではないでしょうか。特に企画に関してはボスには強力な部下がいるでしょう?残念ながら我社のチームではありませんが、 その辺は上手く…そうです、いざとなればアカネがいます。さっきだって面白いアイデアを口にしてました。ボスが聞いたら 絶対に…」


 何がきっかけになったのか、堰を切ったように口から飛び出すランディの話を大樹は黙って聞いていた。
 時に意見はしても、ここまで主張するランディは初めて。これもCEO代理業務の効果か、なかなかやるじゃないかと、大樹は クールな表情とは裏腹に内心ではその変化に歓心していた。

 なにもこうなることを狙ったわけではない。しかしポールに会う度にランディが何か言いたげなのには気付いていた。もちろん、 その内容についてもあらかたの予想はついたし、大樹とてちらりとでも考えなかったと言えば嘘になる。
 だが結論はノー、 意見が言えるランディの進歩は喜ばしいが、だからと言って言い分を聞き入れるわけにはいかない。

 実はランディに言ってないことがある。
 それはかたくなに首を縦に振らない大樹にポールが出した妥協案、まさにランディが言うアドバイザーだ。

 ホテル経営はコーマン社にとっては未知の世界、そんなコーマン社にとって救世主のような大樹をそうそう簡単に諦めるはずがない。 娘婿に据えて家族という絶対的な関係は築けなくても、例えビジネス上のほんの些細な繋がりとて、 最も信頼のおける専門家がいれば心強いし、結局は引きこんでしまえばこっちのものという思惑もポールには 無きにしも非ずだろう。
そして娘婿というおまけを除けば、ポール個人との信頼関係において個人的に協力は惜しまないつもりだが、それを ビジネスとして考える時に一人で請け負うのはあまりの負担。そしてサンセットマダー社はあくまで投資会社、チームを組むにも 資産運用の知恵には事欠かないが、ホテル業務は数字とにらめっこしていても売上に繋がらない利用するお客様あっての商売。 いくら潰れそうなホテルの立直しを多く手掛けてきたとはいえ、経営のみならず社員教育からサービスに至るまでのすべての管理となると、 その点において大樹以外が素人同然では話にならない。

 それを考えればアドバイザーの位置は大樹が一人で協力できる範囲かもしれないが、最終的にコーマン社がホテル経営をどこの企業から 委託するのか知らないが、その企業にすれば目の上のたんこぶ、お互いに嫌な思いをするだけで、聞き入れられないアドバイスなど 必要ない。




「…と、調子に乗って出しゃばりました、あくまでも僕個人の意見ですので聞き流してください」

 沈黙を守ったままの大樹にまずいと思ったのか、言いたい事のほとんどを言い終えたランディがそう言った。 様子を伺うに、やはり自分の力ではまだボスの考えを変えることなど出来ないとつくづく思い知る。が、 言ったことに後悔はない、もしかして、ボスの心のどこかに残ってさえいれば、何かの拍子に考えが変わるかもしれないと 思うからだ。

 大樹は大樹でそんなことを思う一方で脳裏には別の考えが浮かんでいた。それは 同時に基樹の引退希望声明をどうしても思い出させてしまう。


「確かにおまえの理屈は一理ある。だがな、朱音一人でいい企画が生まれると思ったら大間違いだ。 それにアドバイザーの件だが、中途半端な立場はかえって意見の相違を生むだけだと俺は思っている。 管理経営を他に任せるのなら結局はその会社の方針でいくしかない。だとすればアドバイザーなどいらないんだよ。 これがおまえの意見を受け入れられない理由だ。ついでに言っておくがこの件に関しての決定権は俺だ、 おまえが勝手にポールと交渉することは許さない。向こうも承知している、いいな」

「はい、わかっています」

 大樹が念を押すように言った。それはランディに対してではなく、自分の中の“ある考え”を打ち消す為。
 実は心の底でずっと考えていた事、 だがそれは実現は難しいと諦めていた。だが…基樹の発言で大樹の脳裏に再び浮かび上がった、 その諦めていたことが実現するチャンスかもしれないと。 恐らくこれを実行すれば基樹の希望もランディの意見も完全ではなくても通るだろう。 しかし、基樹の希望が通る、すなわち大樹がTOJのトップに就任するという事で、それは大樹が望んでいない事。 それがどうしても欲しい物を手に入れる為でも、すんなりはいそうですかと受け入れられない。


 考えるまいと大樹は首を小さく振った。今はそれよりも朱音と過ごすクリスマスの方がずっと大事な最優先事項で、 ランディには悪いが仕事はしたくないのだ。


「急で悪いがリンダに明後日、そうだな…七時からのパーティーに間に合うよう、エステとヘアメイクの予約を 取るように連絡してくれないか?うちで一番スペシャルなコースでだ、おっと、俺じゃないぞ、朱音だ」

「行かれるのですか?」

 何を思い付いたのか、急にパーティーに行く気になった大樹をランディは不思議に思いながら見上げた。

「おまえが行けって言ったんだろ。それに考えてみたら朱音を紹介するいい機会だしな。婚約者との休暇を楽しんでる俺に、 急な仕事を持ってくる気の利かない知り合いはいないと信じたいね」

 はい?と返事をしながらランディが眉を寄せた。 なるほど、大樹はアメリカに戻ってはいるが、仕事ではなくプライベートだとアピールする気なのだ。
 それが功を奏すか別として、 ランディとて何も意地悪で休暇中に仕事を入れているわけではない。 普段留守にしていればこそどうしても入れざるを得ないのだ、それもどうしても外せないものだけ。それにしても、 自分のボスがこんなに我儘だったとは…どうもこうも、日本に行ってから何もかもがおかしい。


「遠まわしに僕に対して言ってますよね?」

「いや、今現在入ってる予定はちゃんとこなす。たしか会議がひとつと、ビジネスディナーが一件だったな。ただし、 それ以外は俺は関知しない、俺は存在しないと思って対処してくれ。さーて、そろそろベンが着く頃だな」

「存在しないって…また無茶を言わないでください。それこそ僕に責任は取れませんよ?って、ボス…!?」

 ランディの話を聞いているのかいないのか、大樹は朱音の顔を覗き込むと思い切り鼻をつまんだ。 暫くして規則正しく上下していた朱音の背中の動きが止まった。するとぐぐっと苦しそうに喉を鳴らし、大きく口を開けた 朱音が慌てた様子で顔を上げた。

「はぁ〜〜〜〜うっ、ぐ、ぐるしー」

「起きた?」

「すぅーはぁー、ふぅーっ、ちょっと大樹!死ぬかと思ったじゃない、もっと優しく起こせないの!?」

「毎朝してるように?んー、さすがにそれはランディの前じゃはばかれるなぁ」

「だっ…、ばっ…、変なこと言わないでよ!だからっ、あーーーっ、もう!ランディ、大樹の悪い冗談だからねっ!」


 一瞬で顔を真っ赤に染め、ばつが悪そうにランディにちらり目をやってから大樹を睨む朱音と は対照的に、言った本人の大樹は平然とした顔で朱音に笑いかけている。そのうちに二人でじゃれ合い始めるのはわかっている。
 それにしてもランディとしてはボスの責任放棄な発言は 聞き捨てならない、しかもまだ話の途中だ、聞け!と言いたいところ。
 だが既にいちゃついてる大樹に何を言っても今は聞く耳持たずだろう。だとすればランディは何も問題が起こらないのを祈るのみ。 もっとも世の中クリスマス休暇だし、新年早々そう問題も起こるまい。起こらないでほしい、イヤ、起こっちゃ困る、イヤイヤ、 起こるな。

 諦めの気持ちでランディがスケジュール帳を手に取って開くと不意に視線を感じた。顔を上げるとそれは大樹のもので、 何か言いたげにニヤニヤしている。

「何か?」

「ん?いや、反抗期?」

「え?」

「顔」

「は?」


 答えずに笑うだけのボスと首を傾げるランディ、そして、何?と二人を交互に見る朱音。

 大樹は可笑しくて仕方なかった。なんだかんだと最後はイエスマンのランディが、自覚しているのか こんなに堂々と目の前でムッとするのを見たことがない。
 やはり強引にでもCEO代理をやらせたのは正解だったのかもしれない。 世の中、偉くならなきゃ通せない自我がある。ランディは秘書業務に誇りを持っているが所詮秘書は秘書、 これが政治家の秘書ならば、問題が起これば何でも秘書のせい、捨て駒にされてお終いだ。 大樹がそうするはずもないが、そうなりたくないのなら上を目指すしかない。


「顔?何かついてます?」

「ああ、目と鼻と口が。う〜ん、よく見ると俺に負けずなかなかのハンサムだ。さーて、 朱音、ぼーっとしてないで帰るぞ。あー、腹減ったな、どこかでランチして行こうか」

「ボスっ!」


 そんな事聞いてないと言いたげなランディを放置して、大樹は朱音の手を取るとさっさと部屋を後にした。 優秀な秘書がいなくなるのは痛手だが、個人秘書としてリンダを引抜いているから大丈夫。
それに大樹自身、少しずつだが仕事を減らそうと思っているのも事実。



「いいの?ランディ何か話があったんじゃない?」

 飛び乗ったエレベーターの中で朱音が尋ねた。

「要件は全部伝えてあるから大丈夫。それよりランチのリクエストはある?食後はロデオドライブでショッピングな。 明後日のパーティーに着て行く服、持って来てないだろ?」

「ロデオドライブ!?うゎ、私なんかが行けちゃうお店、あるの!?」

「バーカ、俺様の婚約者はどの店だって大歓迎だろ。次からは顔パスのVIP待遇間違いなし」

「ふふふっ、ハリウッドスター並みに?」

「さあ、それはどうだろう」


 言うが早いか同時に大樹の顔が降りてきて軽くキス。

「目、覚めた?」

「ん、まだ」


 お互いにふふっと笑ってキスを交わす二人の休暇は始まったばかり。反抗期のランディは暫く放っておいて、 悲願のジンクス打破は成し遂げられるのか!?








大急ぎで書き上げたのでかなり稚拙な文章になってますね(^_^;)
とにかく更新最優先で話を進めました。真夏にクリスマスですし(笑)
まずはお許しください。いずれ書き直します。もちろん、内容に変更はございません。
というか、背景の絵、何話分か左下だったのが上に行ってる?何もいじってないのに何故?ま、影響ないからいっか?





感想などいただけると嬉しいです。誤字脱字も コチラから

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